君の瞳に宿る

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真っ直ぐに見つめられて、その黒い瞳に自分の顔が写るなんて、本当にあるんだな。
そして、少しずつお互いの顔と顔が近づいて、ああっ、ついに。
おい、ちょっと待てよ。俺が先に目閉じちゃうのは、ダメだろ。
よし、秒単位の勝負だ。

俺は、由美子が瞼を閉じる、その瞬間を逃すまじと、
瞳に吸い込まれるように接近した、その瞬間--------

「えっ、何?」

由美子の黒目の奥を横切る何かが見えた。
飛蚊症? いやいや、人の眼のはさすがに見えないだろ。

「由美子。目、変じゃないか?  目の中で何かが動いているような……」

「あっ、見えちゃった? それね、亡くなった犬のフクなの」

「えっ?」

「目に入れても痛くないほど可愛いっていうでしょ。
 フクは柴犬の女の子でね、本当に愛していたから」

俺も、由美子の瞳に入れてもらえる日が、いつかくるのだろうか。
その他
公開:20/09/15 16:37
更新:20/09/16 05:16

福田七生( 東京 東側 )

ルネサンス人の気質と向田邦子が好きです。

一話読み切りで、由美子と俺が登場するシリーズを続投しています。
他投稿も読んでいただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いします。



 

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