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気づけばもう、蝉の音は聞こえない。

 課題を音声で提出する第二言語の講義。窓を閉めても背後に蝉の声が混じる。
 生活していると気にならないその音を、切り取った音声で漸く認識して喧しく思う。いつも自然に溶け込んでいたのに。
 気づいたら、もう蝉が鳴いている。また、気づいたらもう聞こえない。
 最後の声は、いつだったのだろう。ほんの僅な彼らの夏。土の中でも生きていると知ったときは、何故かショックを受けた。
 
 でも、やっぱり儚い生き物なんだと思う。あんなに一生懸命鳴いているのに、BGMの一つ程度でその声の主に思いを馳せることは滅多にない。
ーー夏が終わるまでは。失ってその儚さに気づくのだ。気づけば、静かな木漏れ日にあの声は寄り添っていなかった。やっと静かに録音できると言葉にしてみるも、何だか寂しさが拭えない。



 だからかな。夜になれば届く虫の音に、またあの声を思い出したりなんかして。
青春
公開:20/09/15 11:35

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