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カーテンを開ける。街灯の明かりが部屋に差し込む。外は曇っていて星は見えない。この喜びは自分らしく伝えよう、帰宅する彼女のことを想いながら準備に取り掛かる。
昼に送られてきたメールはマジシャンとして初めて依頼であった。三年間の長い下積みはひび割れたコンクリートを床と錯覚させた。その日々に新たなコンクリートを流し込むのだ。

ドアノブの棒が限界まで下がりきる音。耳の辺りが沸騰寸前のヤカンのように熱くなり、きゅーんという擬音語が溢れ出しそうになる。彼女は靴を脱ぎながら閉まりきらない扉から手を放す。目と目を結ぶ線が水平に張り合う。ショータイム、音を鳴らして手を合わせる。これを開けばそこにはないはずの横断幕が広がるという手品。横断幕に綴られた文字で歓喜のニュースを伝える手筈だ。次の一瞬、衝撃を伴って動いていたのは彼女の小手先であった。糸は張ったまま、頬が滲むように痛む。彼女は、僕の前から消えた。
その他
公開:20/09/15 05:57

泡鷺あさぎ

泡鷺あさぎです。いつまで生きてるかは未定です。大学に通いながら山に登ったり、本を読んだり、色々してます。ゆるく生きたいなぁとか思ってます。
Twitter▷@Fly_gon7

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