海月雪

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あ、と誰かがこぼした声が、部屋中に響いた。
私は海を見上げた。暗い水の奥から、白海月の群れが降りてくるのがみえた。
「雪みたいだね」
傍らの弟が手を伸ばす。
「懐かしいなあ」
室内の他の人達も、一様に海を仰いでいる。
触れる仕草をする人もいるけれど、その掌はすべて手前で、大きな硝子窓に阻まれてしまう。
私は、弟の背丈が、まだ自分より小さかった頃を思い出した。

大気中に含まれる有毒物質の濃度が、まもなく限界値を超えると、世界中のアラートが鳴り響いた日。呼吸するだけで、肺胞から死滅する世界に暇を告げて、人類は、かねてより準備していた海底都市に移住したのだ。

それ以来、海が空である。

「姉ちゃん、みて。雪だるま」
弟が硝子の外を指さしている。
大小の海月が、身を寄せあい落ちてきたところだった。
ふり止まない白を眺めながら、遠く地上を想う。
いつかまた、日の下で雪だるまを作れるだろうか。
ファンタジー
公開:20/09/13 02:07

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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