とうめいな水族館

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目が覚めると、大きな水槽の前にいた。水槽の中にはなにもない。ただ、たぷたぷと水が揺れているだけ。
一体どれだけ大きいのだろう。仰ぎ見た時だった。腹の底に違和感を覚え、同時に湧き上がるものを感じた。嗚咽に近く、なにか大きな塊が体の中から這い上がってくるような感覚。耐えきれずに吐き出すと、それは巨大な水の魚だった。僕から生まれたその魚は、そのまま大きく跳ね上がり、ちゃぷん、と音を立てて水槽の中に消えていった。
「ああ、きちんと吐き出されたのですね」
振り向くと、男が立っていた。
「この水槽は、人の涙を貯めているのです。なんのためって?ご冗談を。涙が雨のように降り続けば、いつか全てを飲み込んでしまう。そのために、こうして一所に貯めているのです。ただ、この水槽も崩壊は近い。いえいえ、いいのですよ。あなたは何もしなくていい。ただ、その時を待っていればいいのです。どうせすぐに忘れてしまうのですから」
ファンタジー
公開:20/09/13 00:57

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