ジャノメ

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「図書室でテスト勉強していかない?」
「今日は予定あるからさ」
答えは赤だった。この人の周りにだって色んな人間がいる。そっか、小さく呟いて屋上へ向かう。屋上で本を眺めるのは気持ちがいい。穏やかで、凛々しくて、そんな大人になった気分。それなのに、勝手にページをめくるやつがいる。でもやつは周りを青に染めていく。それは海の中にいるみたいに淡くて綺麗な青。

黄色い空の端から緑が湧いてきた。満足したので本を返しにいく。屋上の床はざらざらしていたので手も洗いにいこう。オレンジがかったトイレに足を踏み入れる。
「あの子ずるいよね、字が読めないからって」
「ね、音読もテストもしなくていいとか」
冷たい声。頭の横が誰かに締め付けられる感覚。一瞬止まった足が、上の階に向かって急に動き出した。知っているはずなのに。予定なんてないことも。慣れているはずなのに。伝わってくる温度差も。鏡には赤がほとばしっていた。
青春
公開:20/09/14 01:46

泡鷺あさぎ

泡鷺あさぎです。いつまで生きてるかは未定です。大学に通いながら山に登ったり、本を読んだり、色々してます。ゆるく生きたいなぁとか思ってます。
Twitter▷@Fly_gon7

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