悪魔の契約"不"履行 Ⅱ

　家族を殺害された女は、復讐を果たすべく悪魔との契約を決めた。
「犯人を探し、死を与えて…」
　悪魔は薄ら笑いながら「報酬は？」と尋ねた。
「私の命を…」
　悪魔は少考し、「ま、良いでしょう」と頷いた。
「あなたがまばたきをした瞬間――あなたの復讐は終わることでしょう」
　女は歓喜して目を閉じた。

　そして――闇の中で目を開いた。

「ひっ！」
　そこは汚物と汚水と腐敗臭が充満する異様な空間で、ムカデやゴキブリが肌の上を這いずり回っていた。
「助けてっ！　ここはどこっ？」
　重い鉄板の蓋の上で、悪魔は苦笑いをした。

「旧式の浄化槽の中です。……先程、仰っていた事件のことですが…殺人事件ではなく"ただの事故"ですよ？　真相は警察の捜査ミスの隠蔽。あなたが本当に憎むべきは"社会そのもの"――て、聞いてますか？」

　発狂した女の叫びを聞きながら、悪魔は細く息を吐いた。
「ああ…残念です…」