月に向かって打て

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夕暮れの都会の中で歓声がこだまする。
ああ、いつもの夜だ。
月を背にライトスタンドから見るゲームは、ハラハラのルーズベルトゲーム。
俺はずっとこの場所で野球を見ている。

もう人間の体も失ったのに、野球が好きすぎて、付喪神にでもなってしまったらしい。
俺は球場のプラスチックでできた椅子になっていた。

そういえばいつも来ていた親子はどうしたのだろう?
「パパ」「ひろくん」と呼び合っていたあの親子。
いつもひろくんの誕生日には球場でお祝いしてた親子。
もう10年くらい俺に座ってくれない。
昔を思い出し、ちょっと切ない気持ちになってゲームを見ている。

9回裏ワンナウト満塁。
アナウンスが響く。

「バッター、タカハシに替りましてハセガワ」

なんと!ひろくんじゃないか。10年前の面影は消えていない。
そして俺の方を見ている。

俺はひろくんのホームランボールを受け取った。
ファンタジー
公開:20/09/11 20:49

さとうつばめ( 東京 )

東京生まれ。
読書するジャンルは時代もの多め。ふふ。

*プロフィールお堅いので変えました。
書くの面白くて連投しましたが、長く続けるためにゆるゆるやっていこうかな。

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