4
4

良太の父は去年流行病で死んだ。
それから母親は朝晩休みなく働き、気持ちが疲れ果て寝付いてしまった。
蓄えは底をつき、一人息子の良太が蜆売りをして稼いでいる。

(これじゃあ薬も買えないや。どうしよう、かあちゃんどんどん弱っちゃう)

良太はこの前蜆を買ってくれた医者の見習いがしていた話を思い出した。

それは橙の花をたくさん集めて香りをかがせるというのだ。気うつに効くという。
そんなことで? と思っていたが、良太は母ちゃんが治るならなんでもしようと思った。

それから良太は毎日江戸中の橙の花を探して歩き、豪商の家や寺などでも頼んで花をわけてもらった。

狭い長屋の部屋はどんどん白い橙の花で埋まっていく。
花の芳香は立ちのぼり、それはいくつもの天女のようなかたちになり母親を包む。

「ああ、いい香りがするねえ。ありがとうね。」

久しぶりに起き上がった母親は、あかぎれの良太の手を握りしめた。
その他
公開:20/09/12 20:20

さとうつばめ( 東京 )

東京生まれ。
読書するジャンルは時代もの多め。ふふ。

*プロフィールお堅いので変えました。
書くの面白くて連投しましたが、長く続けるためにゆるゆるやっていこうかな。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容