終電執事 

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由美子とのデートでうっかり終電ギリギリになった。由美子の家まではJRで1時間かかるらしく、タクシーという訳にもいかない。
“仕方ないなあ、俺ンチに来る?”を胸に待機させながら、そうならない様に努力した姿は見せておこうと、俺は広い東京駅の構内で焦っていた。一方、由美子は全く慌てる様子が無く、“もしかして、俺ンチOK?”と、俺が舞い上がる寸前、彼女が言った。

「連絡したから、急がなくても大丈夫」
「えっ、誰に?」
「執事の……に」
「えっ、執事?」

俺たちがホームへの階段を上りきると同時に、電車がすべり込んできた。

「ご案内申し上げます。東海道線最終電車、少々遅れましての到着です。
 お急ぎのお客様には、大変ご迷惑を……」

由美子は、皇族の人がするように、目配せのようなあいさつをしながら、ゆっくりと電車に乗った。
俺は敬礼する車掌と並んで、終電のテールライトが闇に消えるまで見送った。
その他
公開:20/09/12 16:26
更新:20/09/15 17:02

福田七生( 東京 東側 )

ルネサンス人の気質と向田邦子が好きです。

一話読み切りで、由美子と俺が登場するシリーズを続投しています。
他投稿も読んでいただけると、とても嬉しいです。
よろしくお願いします。



 

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