遺骨の味

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「こちらへどうぞ」
葬儀屋の男に通されたのは殺風景な部屋だった。
僕と妹は並んで座った。
「最後に確認ですが、お母様の骨は食べるということでよろしいですか?」
僕は迷っていた。
故人の骨を食べるというのはこの地域の慣習だ。
骨が甘いか苦いかで、故人が人生に満足していたのかどうか分かるという。
僕は大嫌いな慣習だった。
人の心の中を覗くような行為は最低だと思っていた。
しかしいざ母が死ぬと、彼女がどんな気持ちだったのか知りたくなってしまった。
だからここまで来てしまった。
女手一つで子供二人を育てた母。
子供はいつまでも反抗期のようで感謝されたこともなかった母。
僕はどうすべきだったのだろう。
そして今、どうするべきなのだろう。

「やっぱりいいです」
僕は立ち上がり部屋を後にした。
扉の向こうからは骨をかじる音と妹の泣き声が聞こえた。
あれはどっちの涙なのか。
僕には知る必要はない。
公開:20/09/10 23:22

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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