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夜の海が好きだ。
昼間も、もちろん悪くはない。日光に輝く揺れる水面は、まるで数多の光る蝶だ。
僅かに白んだ海上には遠く船が浮かび、海鳥は弧を描きながら意思の無さそうな声で鳴いている。
風の凪ぐ日に絶え間なく続く波の音は、時の不滅と人の矮小さを伝えてくる。
「次はどこ行く?」
ふいに彼女の声がやってきて、僕は昼のイメージを振り払った。
目の前には揺蕩う闇がどこまでも広がっている。針で穴を開けたように点々と光る僅かな人工の灯りと天上の明滅。
繰り返す波の音だけが続き、古い胎内の記憶がそれに呼応する。心臓の高鳴りが徐々に弱まり、嵐が去り雲間から微かな光が射すようにして、頼りなく息が漏れ出る。
彼女にはもう二度と会えないのだという事実の重みごと、静かに闇が飲み込んでいく。
腕時計を見る。一時間が過ぎた。
僕は踵を返して海岸を出、光に満ちた夜の街へ向かう。
もう戻れなくなる、その一歩手前で。
昼間も、もちろん悪くはない。日光に輝く揺れる水面は、まるで数多の光る蝶だ。
僅かに白んだ海上には遠く船が浮かび、海鳥は弧を描きながら意思の無さそうな声で鳴いている。
風の凪ぐ日に絶え間なく続く波の音は、時の不滅と人の矮小さを伝えてくる。
「次はどこ行く?」
ふいに彼女の声がやってきて、僕は昼のイメージを振り払った。
目の前には揺蕩う闇がどこまでも広がっている。針で穴を開けたように点々と光る僅かな人工の灯りと天上の明滅。
繰り返す波の音だけが続き、古い胎内の記憶がそれに呼応する。心臓の高鳴りが徐々に弱まり、嵐が去り雲間から微かな光が射すようにして、頼りなく息が漏れ出る。
彼女にはもう二度と会えないのだという事実の重みごと、静かに闇が飲み込んでいく。
腕時計を見る。一時間が過ぎた。
僕は踵を返して海岸を出、光に満ちた夜の街へ向かう。
もう戻れなくなる、その一歩手前で。
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公開:20/09/12 07:00
更新:20/09/10 22:35
更新:20/09/10 22:35
さまようアラフォー主夫
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