天空に架かる虹の橋

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 空はいつでも、コンクリートの巨大な虹に邪魔されていた。母の手をぎゅっと握って、幼かったわたしはソレを指差し、「蛇?」と尋ねた思い出が微かに残っている。
「いいえ。あれは龍」
 白い帽子の大きなフチを母は左手で抑えながら、眩しそうに、忌々しそうに、ソレを見上げてた。
 龍? そうね。虹みたいなものかしら。すぐ近くにあって頭をぶつけそうだから、島の人はみんなソレの下を通るときはヒョイッと会釈をするみたいでしょ。だから島民はみんな仲良し。だから誰も出て行くことができないのだと、十五で嫁いだ母がわたしの手をぎゅっと握ったときについた皺が、多分、わたしの運命線を変えたのだ。
 蒸し暑い夜。ソレはガウガウと咆哮を上げ、月でも星でもない光を空に放つ。
 あの上には何があるの?
 時代がね、あるのよ。
 時代ってなぁに?
 ここではないどこか、かな。
 波打ち際を歩きながら、母は「泳ごうか?」と言った。
青春
公開:20/09/11 09:22

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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