泳げ、いわし雲

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 ある日、一匹の鰯が釣れた。

 夜ご飯のおかずにしようと思ったのに、そいつが「ボクは雲になりたいんだぁ」なんて言うから。きっとはみ出し者だったんだろうなってことが容易に想像できて。「似た者同士じゃん」と呟いた自分の声が思ったよりも明るくて驚く。

「ひとりぼっちなんだね。あんなに沢山で群れているのに」
「ボクは、雲になりたい」
「どうして?」
「なりたいから」

 それじゃ答えになってないよと思いながらもどこかで安堵した僕は、脇に置いてあったリュックサックからストローを取り出した。それに専用の液をつけてゆっくり膨らませる。そうしてできあがったシャボン玉に、孤独な鰯と海水、そして願掛けの金平糖を少々入れて空へ送り出した。



 泳ぎ回るいわし雲。金平糖の雨。
 ある日を境に見られるようになったこれらの天気について何人もの専門家が必死になって調べているけれど、まだ何も分かっていないらしい。
ファンタジー
公開:20/09/09 15:43
更新:20/09/10 04:08
彼は勝手に鰯をツヨシと名付けた

久寓

(玖寓→久寓に変えました)

読むのが好きです。
書くのは好きだけど苦手です。

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1週間に1作品投稿を目標にしています。
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