ちかごろの歯医者さん

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「次の方どうぞー」
歯科助手さんが呼んでいる。
私は右ほほを手で押さえながら立ち上がった。
ひどい痛さにがまんできず、案内された椅子に足早に座った。

「今日はどうしましたか」
「とにかく右の奥歯が痛くて」
「じゃさっそく見てみましょう」
医者は私の口の中をのぞいた後ひとこと。

「これはひどい虫歯だ。抜きますよね?」
「お願いします」
「ではこちらのフダを両手に持ってください」
「え?なんですかこのフダ」
「あ、知りませんか、最近は痛いときはこの右側のフダを上げる。大丈夫な時は左側のフダを上げる。こんな風に意思疎通できるようにしてるのですよ」
なるほどこれは便利だ。歯の治療中は質問されても話せないのがもどかしかったから。
治療中医者からの「痛いですか?」の質問に、私は何度も右側の「痛い」フダを得意げに上げた。

お会計時のレシートをみると「痛い」フダ16回分 8000円が追加されていた。
その他
公開:20/09/09 19:18
更新:20/09/09 21:21
歯医者 ちかごろ ショートショート

ac

エッセイ、ショートショート作家志向。2020年4月からnoteで作品を発信。毎日投稿で執筆筋肉を鍛え中。羞恥エッセイ、妄想話、エレガント下ネタ、不可思議実話など作風はビュッフェスタイル。
note→https://note.com/acacac
twitter→https://twitter.com/aikingcojing

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