布職人

ウチは先祖代々、織布業を営んでおり私も修行中の身である。
中でも祖父の腕前は人間国宝に指定される程であり、弟子である私や父もその技を受け継ぐべく日々研鑽を積んでいる。
祖父は布作りの現人神と呼ばれ、その技術は世界を変えるとも言われている。
何せ、祖父が作る布は”希”望に使われている布だ。それは同時に恐”怖”の一部でもある。
故に祖父が布を作る事は稀だ。
そんな祖父が私の結婚祝いにと布を作ってくれた。
こんな時くらい作るではなく織ってくれてもいいのに…
「織物ってのはな、染色をしなきゃならねぇ。生まれてきた子供の将来を俺が勝手に染めていいわけねぇだろ」
祖父の言葉には一理ある。この家に生まれたからと言って、織物職人になる必要はない。
実際、兄は税理士だし弟はプログラマーをしている。姉は花屋で妹は保育士だ。
我が家は祖父の代から子沢山である。
その秘密は祖父が作る”鯑”にあると私は睨んでいる。