瞳の無い龍
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武の背中に彫られた昇龍の刺青を、指でなぞるのが好きだった。
逆鱗なんてものに触れたことはなかった。武の不器用な優しさに僕はいつも守られていた。
「画竜点睛って言葉があるやろ?」
龍の眼には瞳が彫り込まれていなかった。その事を疑問に思って尋ねると武は笑ってこう答えた。
「俺が彫り師に頼んだんや。せっかくええ柄をいれてもろたのに、飛んでかれたら敵わんからなあ。こいつは未完成でええんや」
武が死んだのはその年の冬のことだった。
組同士の抗争があったらしい、ということを僕は新聞で知った。好きな煙草の銘柄や、コーヒーの砂糖の量は身体に染み付いてしまうほどに覚えているのに、武が仕事で何をしているのかを僕は少しも知らなかった。
遺体には執拗なリンチの痕があった。背中には煙草の火が押しつけられたような火傷があったと警察から聞いた。
きっと龍に瞳が入って昇っていってしまったんだ。
僕はそう思った。
逆鱗なんてものに触れたことはなかった。武の不器用な優しさに僕はいつも守られていた。
「画竜点睛って言葉があるやろ?」
龍の眼には瞳が彫り込まれていなかった。その事を疑問に思って尋ねると武は笑ってこう答えた。
「俺が彫り師に頼んだんや。せっかくええ柄をいれてもろたのに、飛んでかれたら敵わんからなあ。こいつは未完成でええんや」
武が死んだのはその年の冬のことだった。
組同士の抗争があったらしい、ということを僕は新聞で知った。好きな煙草の銘柄や、コーヒーの砂糖の量は身体に染み付いてしまうほどに覚えているのに、武が仕事で何をしているのかを僕は少しも知らなかった。
遺体には執拗なリンチの痕があった。背中には煙草の火が押しつけられたような火傷があったと警察から聞いた。
きっと龍に瞳が入って昇っていってしまったんだ。
僕はそう思った。
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公開:20/09/08 22:00
平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…
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