パンの叫び

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 ああ、醗酵室は温かくて気持ちがいい。ここに入った仲間達は皆、心と体を膨らませて出て行く。でも僕だけは今朝生まれてからずっとここにいる。
 ガチャッ。扉が開いた。
「私達、焼かれた後、体の中にチョコレートを詰めてもらえるの!」
「へえー」
 コロネ達は膨らんで、元気よく出て行った。次にカレーパン達が来た。
「俺ら、ここを出たら油で揚げられて金色に輝くんだぜ! すげえだろ」
「ふーん」
 彼らも発酵すると部屋を出て行った。今度はチョコデニッシュがやってきた。
「私達は体に豪華なチョコレートをコーティングされるんですの」
 夫人達も去っていった。
 僕は何になるんだろう。楽しみになってきた。
 ガチャリとドアが開く。いよいよだ!
「あー? 何だこりゃ。のびてやがる。誰かこのパン出すの忘れやがったな」
 ご主人は僕をゴミ箱に投げ入れた。
「フランスパン追加しとけ」
 ゴミ箱の中心から無念を叫ぶ。
その他
公開:20/09/08 10:47

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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