月の夜

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月がわずかに揺れる湖面に、カナディアンボートを引きずってきて、静かな白波をたてて浮かべる。正面にはそびえ立つ険しい山。私はそっとボートに乗り込みオールを漕いだ。

満月は不思議な力がある。それが嘘か本当かは関係なくて、ボートに仰向けになって見上げる月は本当に魔力を持っているみたいだと思った。ただ少し、知りたかった。

目が覚めると朝の涼しい風が顔を撫でた。ちょうど日が昇るところで、空は視界いっぱいにパステルピンクで染まっている。その時ようやく、見慣れない風景に気づいた。

湖面で小さな光が追いかけっこをしている。おーいと声をかけるがまるで聞こえていないらしい。

仕方なく進むと湖面いっぱいに蓮の花畑があった。よく見ると蓮には小さな人達が暮らしていた。

「ここは世界の果て?」「違うよ、世界はそんなに単純じゃない」

風も匂いも知らない世界。いつか私の細胞も、全く知らないものになるのだろう。
公開:20/09/07 23:50

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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