Go To My Home

里帰りで競争なんて、昔の人なら世も末だと嘆いただろうか。
『渡郷争（ときょうそう）』――災害や事故などによる帰宅困難者を支援する、ＮＧＯ主催のチャリティーゲームだ。世界中から参加者を募ってチームを結成し、事情や障害があって故郷に帰れない人を帰郷させる。『争』とは付くが、人数も速度も手段も問わない。その人の『帰りたい』が叶う事が、唯一の達成基準だ。
ゲームの経費は募金と参加者の自費で賄われ、達成賞金も出ない。それでも毎回、万単位の参加者が名乗りを上げる。

史上空前の難易度で始まった今回。記録的な歳月と人員と金銭を費やして、その帰郷は実現した。
永久戦争地帯と言われた、分断国家の境界線があった場所。
戦争を終結させ、国交を結び、両国が統合されて一つに戻るまで、三百年。
「ただいま」
蓋を開けた瓶から、骨灰が崩れて風に乗る。
『おかえりなさい』
平和公園の記念碑には、共通語でそう刻まれていた。