夜間読書の男

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 壁一面を本棚にして、ブックオフで叩き売っていた文学全集や漫画を隙間なく詰め込むと、部屋が明るくなりすぎた。
 読書の秋の夜長。別に読むつもりもなかった本を一冊、その本棚から抜き取った。(トルストイ?)すると、その本一冊分の闇が、案外な奥行きだったので、わたしは足がガクガクした。
 読了しなければこの闇は払えない!
 必死で活字を駆け抜け、読み了えた本を本棚に戻したとき、長い夜が明けていた。わたしは「勝った!」と思った。
 その日からわたしは毎晩、本棚から本を抜き取ってはその闇をはらう儀式が欠かせなくなっていた。
 読了しなければ夜が明けない!
 ロシア文学でも、りぼんマスコットコミックスでも、日本書紀でも、一晩で一冊。いや、わたしが読み了る時が夜の明ける時だったのだ。
 昼は働き、夜は夜を明けさせるため読書をする。眠っている暇はない。
 わたしが恐ろしいのは本棚の、本一冊分の闇である。
その他
公開:20/09/06 09:23
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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