橋を渡る

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「橋を挟んであの世とこの世、絶対に渡ってはいけないよ」
祖母から口を酸っぱく言われて橋の向こう側にはひとならざるものが住んでいると思い込んでいた。昔は確かに深い森と神社、畑が広がり、森からは冷たく濃い霧が流れてくることから、神の吐く息に触れると死ぬと恐れられていた。
今は開発を逃れた森の一部と神社が残されるのみで、マンションや団地が建っている。
祖母は死ぬ間際まで開発には反対したらしい。

図書館に行くため自転車で橋を渡る。橋を渡りきった正面に森があり、見覚えのある着物姿の人がひざまずいている。
「おばあちゃんなの?」
老婆とは言えない力で私を突き飛ばした。
「もう、私を見ても話しかけるな」
祖母はずるずると何かに引きずられて森の中に消えた。
私は泣きながら橋を戻った。背中に沢山の視線を感じたが振り向かなかった。

祖母を見かけると目を閉じる。しわがれた声が森の中に消えるまで。
その他
公開:20/09/06 01:12

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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