レインツリー

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 ゴミの散乱した部屋で、俺は毎日ゲームを満喫していた。
「高志、母さんいいものを買ってきたの。レインツリーっていってね、葉に雨が当たるとそれは綺麗に輝くんですって。高志にあげるから、庭まで降りてきて世話してみない」
「いらねえよ」
 そう言いながらも気になった俺は、雨の夜に庭に出てみた。雨が当たるたびに本当にピカピカと葉が輝いている。……綺麗だ。こんなに綺麗なものを見たのはいつぶりだろう。
 本当はわかっている。母さんは俺を見捨てないでくれている。引きこもりの馬鹿でどうしようもない俺のことを。
 雨粒が葉に当たるたびに光が躍る。光はまっすぐに胸に入ってきた。俺はその晩、ずっとそれを見て過ごした。

 朝、パジャマ姿で降りてきた母さんが驚いて僕を見ている。
「……コーヒー、淹れろよ」
 母さんは涙ぐみながら頷いた。
 窓から入る雨上がりの空気を肺いっぱいに吸い込むと、俺は自分の椅子に座った。
その他
公開:20/09/05 11:01

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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