くい

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一瞬の静寂。髪を束ねた君はゆっくりと走り出し、やがてカモシカのような脚が地面を蹴る。舞い上がる身体、突き出した顔、開ききった大口……。

『咥えたー!ターナー、金メダル!』

よし!だが、我々の目標はさらなる高みだ。

『パン食い高跳び女子決勝、パンの高さはついに三メートル!前人未到の世界新に挑戦!』

時は来た。若くして歯を悪くし現役を退いた私は、コーチとして十年間、彼女と歩んできた。その最終目標が三メートルだった。

実は、世界新のかかったパンに私はサプライズを仕込んでいた……婚約指輪だ。公私をともにするうち、私は彼女を人生のパートナーとして考えるようになった。それはきっと、彼女も同じはずだ。

『跳んだ!……咥えたー!世界新記録!』

やった!

真っ先に私のもとへ駆け寄った彼女は、豪快にパンを丸飲みし……え?

「コーチ!」

「あ、うん……おめでとう……あと、トイレ行く時教えて」
その他
公開:20/09/05 06:40
更新:20/09/05 11:26
空想競技

makihide00( 鳥取→東京→福岡 )

30代後半になりTwitterを開設し、ふとしたきっかけで54字の物語を書き始め、このたびこちらにもお邪魔させて頂きました。

長い話は不得手です。400字で他愛もない小噺を時々書いていければなぁと思っております。よろしくお願いします。

Twitterのほうでは54字の物語を毎日アップしております。もろもろのくだらない呟きとともに…。
https://twitter.com/makihide00

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