間の時間

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8月も終わりの木曜日。
良彦と俺は、ふたりきりで夜の学校のプールに忍び込んだ。
「ドキドキするな」
えくぼを浮かべて笑う良彦に、「ガキかよ」と答えた俺は、秘密の共有者として選ばれたことに浮かれていた。紛れもなくガキだったのだ。

田舎町の夜は暗い。懐中電灯を頼りに軋むフェンスをなんとか乗り越える。後ろでもたついている良彦に手を差し出すと、予想より大きな手で握り返された。汗でべたつく手が気持ち悪く、思わず眉をひそめる。早くプールに入らなければ。

「案外あっさり入れたな」
ぷかぷかとプールに浮かびながら、良彦は呟いた。
「あ!」
そろそろ上がらないかと言いかけたところで、良彦は急に声をあげた。
「タオル持ってくるの忘れたなぁ」
声変わりで掠れた音は、そのままプールに沈んでいくようだった。
最近の良彦は、不意に知らない大人の顔を覗かせる。俺はそれが嫌で、なぜだか叫びだしたくなるのだ。
青春
公開:20/09/05 23:26
更新:20/09/05 23:31

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