水墨画館

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『水墨画館』という見慣れない施設の看板を目の当たりにしたので入館してみた。
水墨画で描かれたさまざまな種類の魚が展示されており、館長とおぼしき仙人のような老人に尋ねてみた。
「ここは水墨画を展示している施設なんですか」
「ただの水墨画ではない。『絵に息を吹き込む』というとおり、水墨画に息を吹きかけると命が宿ったように和紙の中で動き出すのじゃ」
老人の許可を得て、鯛の水墨画に息を吹きかけると勢いよく飛び跳ねた。
「すごいじゃろ! 種明かしをすると、中国の三大霊山の一つ峨眉山にある生命の泉から汲んできた水で墨を磨り描いた生物が動き出すのじゃ。
室町時代に活躍した水墨画の大家である雪舟等楊が明に渡った際、生命の泉を探し求めたらしいが見つけられなかったそうじゃ。儂は、長いあいだ峨眉山で修行していて偶然、生命の泉を発見したんじゃ。
今はこうやって、水族館と映画館を併用した『水墨画館』を運営しておる」
その他
公開:20/09/05 19:46
水墨画 仙人 和紙 峨眉山 室町時代 雪舟等楊 修行

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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