壺中の天

0
2

 海岸をふらふら散歩していた僕はガラス瓶を拾って家に帰った。
 少し青みがかっていて、美しく思えたからだ。
「それはどうしたんだい?」
 祖父は、瓶を抱えている僕に尋ねた。
「海岸で拾った」
「瓶といえば」祖父は思い出したように呟く。「昔の中国では、瓶の中に楽園があったという説話があったな」
「へえ」
「覗いておると、吸い込まれたそうだ……。壷中の天という言葉もある」

 次の日も、僕は海岸を歩いていた。僕はガラス瓶を拾っては、中を覗いていた。中に楽園がある瓶も混ざっているかも。
 海岸に流れ着いた瓶を片っ端から拾ったが、楽園にたどり着くことはない。すでに夕方になりかけていた。
『……おい…‥』
 その声は、空から聞こえていた。
『だれか……なかにいるのか……』
 僕はふと思う。
 最初から瓶の中にいたら、その人たちはそこが瓶の中だと気づくのか。恐ろしくなり、家に向かって駆け出した。
ファンタジー
公開:20/09/05 14:56

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容