サンダルウッド

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気分転換にお香を買ってみた。
安物で、バラエティショップでたまたま見つけただけのものだ。
円錐の上を火でちりちりと焼く。
とろり、と煙があがり始めた。

細く長く まるで帯締めみたいだ
揺れながら のぼる
天井で溶けて 消える

喉の奥に焼き付くような香り。
いつも彼がつけていた香水に似ている。
香水を変えてもこのラストノートは譲れないと言っで熱心に説明してくれた。
なんだったっけ…

別れてから随分経つのに、彼の荷物は置きっぱなし。
きっとそのうち「ただいま。久しぶり」と帰ってくる気がする。
そのぐらいに当たり前に部屋中に物がある。
飾り気のない私に飽きて、置き手紙ひとつでいなくなった。

相変わらず私は口紅ひとつ付けない。
香水の香りもひとつ知らない。

でも馴染んだものは覚えている。
この鼻腔をくすぐる、やさしい香り。
懐かしくて、今にも玄関が開く気がしてしまう。
恋愛
公開:20/09/04 00:46

雨森れに( 東京 )

色合いの綺麗な物語を紡ぎたい。
シーンごと切り取られた刹那。
不思議、恋愛、ファンタジー、怪談、純猥談などをチラホラと。
中身はお酒が好きなアグレッシブ。

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