ちくわの双眼鏡

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夏休みの宿題も、残すはあと一つ。自由研究だけだ。
ぼくは、スーパーのちくわを2本、双眼鏡のようにセロハンテープで繋げ、中を覗いた。
キラキラ巨大なイワシの群れに、ゆらゆら浮かぶクラゲたち。仮説通り、海中の様子が見えた。
部屋の電気を消し、もう一度中を覗いた。
やっぱり。暗い部屋でちくわを覗くと、チョウチンアンコウやオウムガイのいる、深海の様子が見えた。
今度は、冷房を止めた熱々の部屋の中で、汗をだらだらと垂らしながら中を覗いた。
薄茶色で透明な水。もしかして、川? いや、昆布が見えるし、海か。
でも、こんにゃくみたいにプルプルした生き物や、玉子みたいにまんまるの生き物を、ぼくは知らない。
もしかして。ここはおでんの中だ!
やった。この景色を見たのは、きっと世界でぼくが初めてだ。

あれから大人になり、毎年、寒い冬にこうしておでんを食べると、あの夏を思い出して身も心もじんわりと温まる。
青春
公開:20/09/04 20:15
更新:20/10/26 13:41

日常のソクラテス( 神奈川 )

空想競技コンテスト銅メダル『ピンポンダッシュ選手権』
空想競技コンテスト入賞  『ダメ人間コンテスト』
ベルモニー Presents ショートショートコンテスト入賞 『縁茶』
X (twitter):望月滋斗 (@mochizuki_short)

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