風邪のタイニーな牛か

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カーフハッチの柵は開いたままだった。父は子牛を抱きかかえ、力なくうなだれていた。
「どうしたの?」
重々しい顔で、父は応えた。
「風邪を引いたみたいだ」
ふうん、と私は思った。つい先日、屠殺の現場を見せられたばかりで、少し怒りが湧いた。
「どうせ、育てた後で殺すんでしょう」
悲しそうな目をして私を見る父のことが信じられなかった。

子牛が死んだ翌朝、父について来いと言われ、裏山の供養塔まで歩いた。
「俺たちは生かしてもらっているんだ」
父は言いながら、昨夜焼いて粉々にした骨を、ゆっくりと塔の周りに撒き散らした。


ある年の暮に久々に戻った私を、父は泥まみれの軍手で迎えてくれた。
「風邪引いたりしてないか」
「大丈夫」
薄暗い部屋に、オレンジの灯がぼんやりと輝いていた。神棚の上には小さな磁器製の牛が鎮座している。
「子牛たちは元気?」
私が訊くと、父は何も言わず、皺を集めて優しく微笑んだ。
その他
公開:20/09/05 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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