末路

5
5

 不治の病を宣告されてから、僕の心は粉々になって砕け散った。普通に生きている人間が憎らしかった。けれど、人を殺したり、女を犯す勇気はない。そのジレンマを埋めるかのように、僕は"つまらない悪意"に手を染めた。
 郵便ポストに栓を開けた墨汁を流し込み、民家の花壇に熱湯を注ぎ、スーパーの米袋を切り裂いた…。
 僕は死ぬんだ。そう思うだけで、心は高揚し、己が世界と戦っているかのような錯覚さえした。


「…そういう人間なんです、僕は」
 僕の告白に、看護師は少し戸惑い、少し笑み、やがて真剣な顔で僕を見つめた。
「…人ならそういう感情が生まれてもおかしくありません。そんな感情なんて、早く体から追い出しましょう」
 不思議だ。その言葉を聞いただけで――少しだけ、心が楽になった気がした。

「…この点滴が終われば、あなたは"楽"になれますから」
 針を交換する看護師を見つめながら、僕の意識は闇に落ちた。
ホラー
公開:20/09/03 11:24
更新:20/09/03 11:28
とある事件を連想 点滴? 上には上がいる?

Sees

ショートショート好き。
得意ジャンルはホラー。
座右の銘は『清く正しくいやらしく』。
好きな書籍は『悪魔の辞典』と『悪魔の寓話』。
制限400字という発想に感銘。
コメントとフォローはできるだけ返します。

楽天ブログにて『株式会社SEES』の名でショートショートと短編小説掲載中。
https://plaza.rakuten.co.jp/gomishi14/
よろしければ、ぜひ。そして、たまに呟きます。
https://twitter.com/IiSees

さて、今日はどんな事件が起きることやら……。



 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容