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花盛りの紫陽花の葉に、蜻蛉が一匹休んでいた。
イトトンボだったか、カワトンボだったか、細い体が金青に輝いて美しい。もっと近くで見たくなり、一歩踏み出したところで――すい、と流れた。
暑い盛りに追い出して気の毒だった。進行方向に片手を合わせて振り返ると、盛りのはずの紫陽花が、茶色く縮れて枯れていた。
真夏の炎天下に見頃のわけもない。陽気に当てられて空目をしたのだろう。吹き出す汗をハンカチで拭い、散歩を再開する。
折り返して帰り道、水際に緑陰を広げる楓に、また青い蜻蛉を見た。
同じ蜻蛉かは判らないが、今度は驚かすまいと横へ避ける――すい、微かな羽風が頬を掠め。
サンダルの爪先にひらり、赤いものが滑り込んだ。
抓み上げたそれは、色付いた楓の葉だった。
振り返る勇気はなかった。早く。早く。次第に急ぐ足を嗤う様に、背中でザラザラと軽いもののなだれる音が続く。
――すい。
肩に小さな感触が落ちた。
イトトンボだったか、カワトンボだったか、細い体が金青に輝いて美しい。もっと近くで見たくなり、一歩踏み出したところで――すい、と流れた。
暑い盛りに追い出して気の毒だった。進行方向に片手を合わせて振り返ると、盛りのはずの紫陽花が、茶色く縮れて枯れていた。
真夏の炎天下に見頃のわけもない。陽気に当てられて空目をしたのだろう。吹き出す汗をハンカチで拭い、散歩を再開する。
折り返して帰り道、水際に緑陰を広げる楓に、また青い蜻蛉を見た。
同じ蜻蛉かは判らないが、今度は驚かすまいと横へ避ける――すい、微かな羽風が頬を掠め。
サンダルの爪先にひらり、赤いものが滑り込んだ。
抓み上げたそれは、色付いた楓の葉だった。
振り返る勇気はなかった。早く。早く。次第に急ぐ足を嗤う様に、背中でザラザラと軽いもののなだれる音が続く。
――すい。
肩に小さな感触が落ちた。
ホラー
公開:20/09/03 22:58
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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