不倫の果て城址

ついに立ち上がった彼女の姿をひと目見てみたい。
SNSで拡散された動画をきっかけに全国から見物人が不倫の果て城址公園に集まり、その天守閣の跡地を起点に、蚊取り線香のように人々がとぐろを巻いているのを、私は園内の茶店から眺めていた。それは長蛇。皆がソーシャルディスタンスをはかり、マスク姿で、気持ちはただ一点天守閣の跡地にいるだろう彼女に向かっている。
季節変わりの秋の青空はまだ未熟な淡さで、薄いちぢれ雲が、まだ続くであろう感染症との闘いに震えているように見える。
マスクを外せば吹出物。今世界では地球史上最多の吹出物があり、それは地球の空気が圧縮されていることを教えてくれる。息苦しい。でも彼女は立ち上がった。それは希望だ。この十年泥沼の不倫にずぶずぶだった彼女が、ついに上司である男に見切りをつけた。
私だって本音を言えばこの列に並びたい。彼女が夫の不倫相手でなかったなら。
私だって別れたいの。