まあまあのピンチ

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 その怪物は、紫色の肌とガタガタの牙と真っ赤な目をしていた。
「うう……もうすぐダ」
 怪物は私を村から連れ去り、夜の森を歩く。奴は私を腰に携えている。
 その醜さに、コウモリさえも近寄らない。
「どうするつもり」
 怪物は私を睨む。
「ウマいもん……お前……くう」
 こいつは私を食うつもりだ。
 私は戦慄した。
 
 やがて住処にたどり着く。
 小さな小屋だった。怪物は私を床に投げ捨てる。
「うう」怪物は私を見つめ、つばを垂らす。「ウマいもん……」
 いよいよ食われる。
「やだ……」
「……はやく」
 怪物は、私じゃない方向を指差していた。
 台所だった。
 鍋やフライパン、包丁、まな板が並んでいる。
 合点がいく。
 私は怪物に食べられない。
 うまいもんを作ればいい。
 ピンチとすれば、私は料理を作ったことがない、ということだけだ。

 なに、作ろう。
ファンタジー
公開:20/09/01 22:26

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