真夜中の花火

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花火が上がっているのだと思った。最終電車に乗り遅れ、人混みを避けて歩いているうちに川沿いに出た。その川に、大きな花火の影が見える。空を見上げれば雲もないのに、どこにも花火は見当たらない。川から流れてくる冷たい風も気持ちいい。川面に映る不思議な花火を見下ろしながら、鈴虫が鳴く土手に座り込んだ。
音もせず、静かに消えてはまた光る様子をぼんやりと眺めていた。
暗闇に目が慣れてきた頃、ふいに空に巨大な影が動いた。飛行機だろうか。いや、巨大な手だ。目を凝らして空を見上げると、細い糸のようなものが空から降りてくる。そして、川面にパッと光が灯された。線香花火だったのか。
何かを弔うように、ピカピカと夜が明けるまでそれは続いた。
対岸で、懐かしい人たちも花火を見下ろしていたようだ。

「大丈夫ですか?」
始発が出る頃駅前のベンチで起こされた。ふわりと、服の裾から火薬と草の匂いがして消えた。
その他
公開:20/09/02 21:19
更新:20/09/10 20:23

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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