9
7

私は息を一つ吐き、道着の埃を払った。観客達の私を見る視線が緊張を更に増幅させる。十分準備は整った。そして私は演舞エリアに降りた。

始まりだ。

空気の抵抗を感じながら中段の正拳を繰り出した後の、上段の蹴り。そして回り込んで下段の二段蹴りからの上段突き。

息を止め、気に集中した。周囲の雑音は全て聞こえなくなり、私の耳には空気と衣が擦れる音だけが響く。

「エイ!」

そして決めの中段突き。私の拳に合わせて雲が一つ現れた。次の連続突きで上空へ真夏の入道雲のように増幅していく。更に蹴り上げた右足の先から虹が雲を跨ぐように伸びた。

そして最後に正面突きを繰り出し、拳を強く握った。突風が吹き、雲を一気に吹き飛ばした。その空には私と太陽と虹が残されていた。

地表から大きな拍手と歓声が聞こえてきた。

空手(ソラテ)の一分演舞を終えた私はパラシュートを開いてゆっくりと地上に向かった。
その他
公開:20/09/02 13:10
更新:20/09/06 14:00
空想競技

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容