Ⅱ．003 フライ・ダディとダンシングハート

“死”は宙を飛ぶ光に惹かれ、まんまと彼に釣り上げられた。
「また獲ったぞ」
「魚釣るより簡単そうね」
「魚の方が断然手強いさ」
　得意気に釣り竿を振るう彼“フライ・ダディ”はとにかく活きることに忙しい男だ。どれだけ仕事が忙しくとも、休日は渓流釣りに出かけ、馴染みの宿で釣り仲間と盛り上がるのを欠かさない。
　そんな彼の妻“ダンシング・ハート”も負けず劣らずな行動力で、今も舞台上で、若者顔負けのキレのある舞踏を披露している。
　彼らは、お互いの活き方を尊重しながら今を生きている。
「そろそろ離れるか」
「別にコソコソ手伝うことないと思うけど」
「いい年して、親に手助けされるなんて恥ずかしいだろ」
「そんなひねくれた子に育ててないわ。照れくさいんでしょ？」
「何の事だよ」
　現在、夫婦には揃って始めた新しい活き方があった。
　それは陰ながら、息子が始めた途方もない悪あがきに悪乗りすることだった。