静かな隣人

隣人一家は本当に静かな人たちだ。小学生の子どもが三人、赤ちゃんが一人、犬も一匹いるというのに、子供の泣き声どころか足音ひとつ聞いたことがない。

越して来たばかりの頃は、騒音に悩まされるんじゃないかとひやひやしていたが、いらぬ心配であった。

もしかして本当は住んでいないのかと思う事もある。が、電気はついているしゴミ捨て場でもよく出会う。先日も奥さんと鉢合わせたからついこんなことを聞いてみた。
「何か防音対策とかされてるんですか、いつもとっても静かだから」すると「いいえ、何も」と首を振る。
その顔が何だか苦しそうに見えたから私は少し話題を変えた。
「もしかして、うちのピアノうるさかったりしますか」
すると彼女は少し困ったような顔でこう言った。
「人間生きていれば、物音のひとつやふたつ立てますよ、生きていればね」
「まあ、そうですよね」
私も笑って同意したが、何だろう、何かが妙に引っ掛かる。