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俺は慄いていた。ここへ来て80年が経つ。いよいよ、お送りの時が近づいてきた。

あの目を刺すように鮮やかな白いマントを羽織って、いまや遅しと、あの女は待ち構えているだろう。

多くの同胞たちが現れて行った。60余年、共に過ごした盟友レイベックも、つい先日、とうとう生ってしまった。

始まりの時が近づいてくる。誰も、生から逃れることはできない。

死者にはすべての生の記憶が蓄えられている。だが新たに生まれ出る者に、記憶は与えられない。媒体の生死に関わらず、ただ魂だけが、孤独に存在し続けるのだ。

これまでの生を省みるに、俺は死ぬたびに同じ後悔をしているらしい。だが生まれるときには忘れてしまい、また、同じ過ちを繰り返すのだ。

そろそろハイハイをするのも辛くなってきた。前歯以外の乳歯は歯茎に埋まって消えてしまった。

女がやって来る。あのか細い腕が俺を抱きかかえ、新しい夢を見させるだろう。
ファンタジー
公開:20/09/02 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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