ふたりの世界の話をしよう

　世界樹で目覚めた者“レヴ”の中には、『世界樹の夢』とデートをした者がいる。
　デートといっても、並んで世界樹のそばを歩いただけらしいが。ただ、『世界樹の夢』と歩く“レヴ”は、自分ではない“他の誰か‟に乗り移っているような感覚があったとも話している。
　世界学者は、“夢”そのものである『世界樹の夢』の記憶が“レヴ”に流れ込むことで発生した一種の追体験ではないかと考え、その“他の誰か”を“恋人”と呼称した。
　これは追体験をした“レヴ”の証言で、“他の誰か”に向けられる『世界樹の夢』の好意的な態度や情愛に満ちた表情などから推察されてのものだった。
　デートを経験した“レヴ”はその性別を問わず、一様にそのひと時を幸福な時間と話した。文字通り“世界にふたりっきり”を味わった充足感と、それが夢として消えゆく喪失感を抱えながら。
　ちなみに、再び世界樹で目覚めたという“レヴ”は、一人も出ていない。