飛べないペガサス

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 そのペガサスには片方しか翼がなかった。他のペガサスは皆、一対の大きくて立派な翼を持っている。片方しか翼のない彼は、空を飛ぶことが出来なかった。
 毎年行われるペガサスレースに彼だけは正式参加を許されなかった。大空を駆ける速さを競うレース。それでも彼は、翼を躍動させ空を駆け抜ける仲間達を見上げながら、一緒に地上を走った。空が飛べないのに一等賞なんて獲れないのに、諦めずに毎年走った。いつか飛べると信じて。
「一度でいいから飛んでみたかった。あの大空を自由にな。だけどもう満足だ。後はお前に託す。負けるなよ」
 一年前にそう言い残してじいちゃんは死んだ。一等賞が獲れなくてもじいちゃんは最後まで立派なペガサスだった。
 僕も実は片翼で生まれた。今日の為にこの一年間、過酷なトレーニングを積んできた。
 ひとりで飛べなくてもふたりなら飛べる。じいちゃんの翼を移植して一年、今日のレースは必ず僕が獲る。
ファンタジー
公開:20/08/30 22:33
更新:20/08/31 08:55
空想競技

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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