理想的環境

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 ある男が天に召された。彼は生前の善行により天国へ行くことが出来た。その世界は、人のあるべき究極的な理想を実現し、何事に煩わされることもなく快適に暮らしていけると定義された、神の領域であった。
 その世界には、貧困は無く、空腹も無く、病も無く、怪我も無く、当然もはや死も無い世界だった。
 彼は生きているときから、熱心に神に祈っていたから、
「これこそが理想の世界。幸福の世界」と思い、最後はこの世界に行きたいと願い続けていた。
 ハズだった。
 彼はここに来てしばらくして、全てを知った。
「この世界における理想は、この世界を支配する神の説く理想。その環境なのだ」と。
 彼は朝にスクランブルエッグが食べたく。午後にクッキーとお茶が欲しく、夜にビールを一杯飲みたかった。
「ああ、この世界には、夜さえ無い……」
 彼は悟った。幸福は、あれこれ示されるものでは無く、それぞれ心の内で感じる物なのだと。
その他
公開:20/08/29 18:10

N(えぬ)( 横浜市 )

読んでいただきありがとうございます。(・ω・)/
ここに投稿する以外にも、自分のブログに同時掲載しているときがあります。

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