月を吸う(つづき)

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少年はストローの先に漏斗を取り付けた。そして何やら牛乳パックに入った赤い液体を注ぎ始めた。
「ねぇ、なにやってるの?」
ぼくは不思議に思い、少年に尋ねてみた。
「吸って欠けた分だけ月にイチゴミルクを注入しているんだ」
「······イチゴミルク!?」
欠けていた月は、みるみるうちに赤みを帯びたまん丸な満月になった。
「六月の満月は『ストロベリームーン』と呼ばれているんだ」
ぼくは望遠鏡をのぞきこみながら、赤く染まった満月にうっとりと見とれていた。
すると、少年がいたずらっぽくぼくに言った。
「好きな女の子はいるかい? ストロベリームーンを見れば恋の願いが叶うよ。ストロベリームーンは恋愛成就の月なんだ」
ぼくの顔もストロベリームーンのように赤くなった。
「じゃあね、ばいばい」
少年は手をふり、おかしそうに笑いながら走っていった。
そして、ひとり残されたぼくはストロベリームーンに願い事をした。
ファンタジー
公開:20/06/20 07:26
『とってもふしぎな創作ドリル』 「ストーリー01 月を吸う」 少年 ストロー 漏斗 イチゴミルク 満月 六月 ストロベリームーン

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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