酔篝(よいかがり)-10(終)

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「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の……ながながし夜をひとりかも寝む」
百人一首、柿本人麻呂の歌。半端に切れた冗談の続き。
一段上で止まった背中。手を伸ばして目尻の皴に触った。強張った顔とぎこちない指。化粧臭い粉末の感触。
こういうの、送り狼って言うよな。露骨に未練たらしくて笑える。バレッタを外したら、解いた髪が壁みたいになだれた。生え際に白髪がちらりと光った。
「もう遅いわよ、鹿野君」
二十一時三十二分。
同じ高さにあるはずの唇を、覗き込むのは諦めた。

「さよなら、山尾先生」
階段上る音、聞きたくなくて先に帰った。
最後まで縮まなかった距離。戦利品はバレッタ一個。これきり忘れるから、勝手に決めてポケットに突っ込んだ。
スニーカーで砂利を踏みながら、夏は今からなのに、なんて夜が長いんだと思った。
馬鹿が食い散らして酔っ払った馬酔木。きっと来年も咲くけど、俺は二度と、花影を傘にしないと思った。
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公開:20/06/18 23:07
馬酔木(あせび/あしび)の花 百人一首、柿本人麻呂の歌 BGM:井上陽水『少年時代』

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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