スーツケースと君と

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乾いたアスファルト。ゴロゴロと響くキャスターの音。
黒のスーツケースを傍らに歩く町。スーツケースと、君と歩く、見知らぬ町の早朝の清々しさ。

「......ねえ、天気が良くて、どこまでも歩いていけそうだね?」

晴れた空はどこまでも高く澄んでいる。散り散りに浮かんだ雲が、青を静かに際立たせている。
都会の喧騒から離れた町に人の姿はない。そのために僕は、僕と君だけの世界を果てなく進んでいけそうな気がしている。

「......時間の許すかぎり、僕ら、歩いて行こうか」

僕の声に、君が微笑む。君の表情は心に刻まれている。君との旅行に買った黒のスーツケースが、真新しく光を反射している。

「ーーねえ、」道中に紡ぐ、君への言葉。返答は僕の胸に届く。

ーー君は、僕に別れを告げたけれど。僕は、それが本心でないと知っているから。
だから一緒に、どこまでも行こうよ。
君と、君の入ったスーツケースと共に。
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公開:20/06/19 23:00

徳田マスミ

ショートショートを好むのです。
コメディからブラックまで、色んな話を書きたいと思います。

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