午前六時の奇跡。

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 午前六時。
 ガラス越しに、庭を眺める。
 すると、一匹の白い犬が現れた。
 庭を荒らすような気配はなく、ふらふらと、歩いている。
 数分後、犬は立ち止まった。
 そこは、紫陽花があった場所。
 先日、枯れてしまったのだ。今は、葉が少し残っているばかり。

 犬の鼻が、そっと、葉に触れる。
 すると、見る見るうちに、葉が生き生きとし、気づけば、紫陽花が咲き誇っていた。

 犬がこちらを向く。
 愛くるしい顔で、こちらを見つめる。
 犬は、優しい声で「わん」とひとつ鳴くと、どこかへ行ってしまった。



 “紫陽花”は、先日亡くなった母がくれたものだった。朽ちていたのに。
 幻だろうか?頬をつねる。イタイ。

 ふと、紫陽花の横に、透明な瓶が落ちているのに気づく。
 庭に出て、瓶を手に取る。
 なにか入っている。紙だ。
 紙には文字が…。

 “あなたの母になれて幸せだった”
その他
公開:20/06/19 20:41
更新:20/06/28 14:46
紫陽花 透明

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人3年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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