したたる男たち

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朝6時。私は隣で眠る夫にスプーンで水をかける。それで目覚めた夫を庭に連れ出して、今度はじょうろで全身をしっかりと濡らす。濡れた夫は美しい。それはあじさいのよう。もう50年、雨の降らない朝はそうやって過ごしている。
「行ってきますよ」
8時には還暦の息子が出社する。会社では重役らしいけれど、私からすれば甘えん坊のひとり息子。いつまでも独身なのが心配でならない。
ここからが夫婦水だらけの時間だ。
ゆっくりとふたりでお風呂に浸かってから、水辺を散歩したり、庭で水浴びをしながら、好きな詩や小説を読みあう。
今日は昼から雨になるというから、朝のうちに水浴びをして、午後は雨に打たれる夫を見ていようと思う。笑顔や困り顔もいいけれど、濡れた夫の横顔に勝るものはない。
息子の鞄から折りたたみ傘は抜いておいた。あの子も河童だ。濡れ場が欲しい。そう言うと人間の皆さんは驚くけれど、出会いのことなんですよ。濡れ場。
公開:20/06/18 12:35

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