酔篝(よいかがり)-6

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夏休みの前日だった。
「鹿野君……?」
湿った足音が駆け込む。葉を叩く雨音が乱れて雫が降った。寒いは通り越してる、ただ山尾を濡らしたのは悪かったと思った。
「どうしたの、こんな時間まで」
馬酔木はすっかり散って、緑の傘は暗い。咲いてたとしても、下校チャイムはとっくに鳴った。光って見えるわけもないけど。
「雨宿り」
言い訳にもなってない言い訳。山尾ならきっと気付くし、来ると思った。今日なら来ると思った。
「あのさ、山尾……先生」
顔の輪郭はぎりぎり見えた。
「今まで色々ごめん」
言いたい事は山程あった。言っちゃいけない事ばっかり。
「つまんねぇなんて嘘。あんたは良い先生だよ。俺が言っても説得力ねぇけど」
聞かなくても判る。授業は窓越しに見てたから。
ほとんど行かなかった教室は、馬酔木の脇にあったんだ。
「転校前に、挨拶しとこうと思って。……今日までありがとう」
多分、これで正解のはずだった。
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公開:20/06/18 12:34
更新:20/06/18 12:42

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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