てんとうむしの男

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 てんとうむしは「天道虫」とも書く。それは、こいつらがいつだって「天」を目指しているからそう名付けられたのだと、俺は思っている。
 一寸の虫にも五分の魂。
 俺は俺を懸命に這い上っている推定二万匹のこいつらを感じながらこのことわざを思う。こいつらは俺の魂を掻き取りながら俺を上り、その五分の魂がすっかり俺の魂に変わった時、剃髪した俺の頭に固定してある避雷針の天辺から、それを天へ届けるために飛ぶ。
 全裸の俺を這い上がり、俺の輪郭の限界点から一斉に天の道を目指す二万匹のてんとう虫の十二万本の脚と二万の口が、俺から輪郭を奪い、俺という一個の魂を二万個に分割して天へ運んでくれる。
 てんとうむしよ。
 一匹が飛翔するごとに、俺はてんとうむし一匹分ずつ軽くなっていくのを感じる。
 二万匹で足りるだろうか? 二万匹では多すぎただろうか?
 俺という魂の重さをてんとうむしに托し、俺はここに立ち往生する。
その他
公開:20/06/18 08:59
更新:20/06/18 09:01
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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