酔篝(よいかがり)-7

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業者の手配が遅れて、引っ越しが一週間伸びた。
したい事も行きたい場所もなかったから、部屋で寝転がってた。
鍵さえ掛けとけば干渉されない。この家で評価出来る数少ないとこだ。お袋が出てって以降、俺を育てたのは親父でも今の母親でもなく、定期的に振り込まれる口座の金だった。

そこまで興味ないサイトのスクロールにも飽きて、暇だったから近所の神社に行った。
夏祭り。学校で聞いた気がする。――学校。馬酔木が広げた緑の傘。もう散った花提灯。タバコの煙と甘い匂い。眼鏡とひっつめ髪とハスキーな声。

転校はいつもの事。どうせすぐ忘れる。祭囃子を聞き流しながら、わざとゆっくり石段を上った。橙色の提灯。夜店の灯り。空に散らばった星。上りきって深呼吸すると、ソースの匂いで満杯になって、久しぶりに笑った。
「鹿野、君」
声掛けたのを、はっきり後悔してる響き。
「山尾先生」
白い浴衣が、境内の入り口に立ちすくんでた。
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公開:20/06/18 20:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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